「虚構の東京を写真で作る」というコンセプトのもと、レタッチ技術を使って看板やビルの室外機、窓、電柱などの“ノイズ”を消し、街を裸の状態へと仕上げる「TOKYO NUDE(トーキョー・ヌード)」シリーズで知られる、フォトグラファー・レタッチャーの安藤瑠美。
「TOKYO NUDE」の不思議な街の風景写真が話題を呼び、2024年の芥川龍之介賞受賞作品『東京都同情塔』(新潮社)の装幀や、文芸誌『群像』(講談社)、『みすず』(みすず書房、休刊)の表紙にも作品が採用されるなど、活躍の場を広げています。
本書は、安藤瑠美の「TOKYO NUDE」シリーズを100点収録する商業出版初の作品集です。
■Introduction(本書抜粋)
東京は、時代とともに新陳代謝を繰り返してきた。
ひしめき合うように建てられたビル群は、まるで都会に根差した一つの生命体のようだ。
東京に暮らす私は、この硬質な生命体と共生している。
一方、人同士の共同体意識はネット上に移行しているように感じる。
遠距離のバーチャルな繋がりの方が、壁を挟んだ隣人との関係よりもよっぽど重要だったりする。
バーチャルがリアル化し、リアルがバーチャル化している。
今や東京という都市の輪郭はボヤけつつある。
我々にとって物質的な機能が不要になった時、東京はどんな姿になるのだろう。
そこには入口も出口も存在しない、箱としての建造物が広がる。
全ての活動は箱の中で完結し、都市からは写真や文字、人の消費活動の痕跡は消滅している。
人間に装飾された文明という衣服を脱ぎ捨てた、東京の露わな姿 =「TOKYO NUDE」が広がる。
それは我々にとってのディストピアなのか。
東京にとってのユートピアなのか。
私達は、確実に変わりゆく東京の輪郭に対峙していかなければならない。
■プロフィール
安藤瑠美(あんどう・るみ)
岡山県出身のフォトグラファー、レタッチャー。
東京藝術大学先端芸術表現科を卒業後、アマナグループ株式会社アン入社、その後独立。
主に写真メディアを用いて作品を制作。画像処理などを取り入れつつ、現実と虚構が入り混じった都市風景をつくり出している。
SPECIAL CROSSTALK 安藤瑠美×九段理江の注釈において、誤記がありました。
読者の皆様及び関係者の皆様に、お詫び申し上げます。
・誤:注釈2行目「国立代々木競技場」→正:「国立競技場」
・誤:注釈9行目及び12行目「新国立代々木競技場」→正:「(新)国立競技場」
・誤:注釈11行目「丹下健三」→正:「隈 研吾」